memoriae8981

北の都にかつてあった、ある女子寮の記録と思い出

入寮時に持たされた電気ポットのこと


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 寒い冬の夜は、今でも湯を沸かし、小さな湯たんぽを作る。一人でキッチンに立ちヤカンを火にかけていると、冬の夜の自炊室のことを思い出してしまう(なぜか、思い出の中は冬が多い)。

 入寮当時、母が持たせてくれた数少ない持参品の中に、小さな電気ポットがあった。入寮前の見学で、部屋の中に流し台やコンロがないのを心配した母が、せめてお湯くらいはいつでも部屋の中で使えるように、と用意してくれたのだった。しかしいざ入寮してみると、各自炊室には何代か前の卒寮生が寄贈したティファールの立派な湯沸かしポットが備え付けており、お茶を入れるのも湯たんぽを作るのも大体これで足りてしまった。ただし、冬は極寒の廊下に長居したくなかったので、このポットはそこそこ役に立った。

 容量は一リットル足らずで、てっぺんに丸い青いボタンが付いており、これを押せば沸き、沸くとポコンと音を立ててボタンが戻る、単純な機構のモデルである(何とか、似たモデルの写真をネットで拾った)。生まれてはじめての一人暮らしで、はじめて持つ、自分だけの家電。ささやかだが、それがどことなく誇らしく、うれしかったのを覚えている。

 結婚し今の住まいに越しても、このポットは大事に持っていたが、とうとう昨年、しまいこんだままであったために思い切って処分した。ご苦労さまでした。